大林 ぼくが人妻松居さんと最初に会ったのは、鞆の浦で『野ゆき山ゆき海べゆき』を撮影していたとき、'83年ですよね。
松居 鞆の浦の人妻架橋計画が承認された年ですね。映画で赤灯台が綺麗に描かれて、伝馬船を漕ぎ出すシーンがすごく印象に残っています。
大林 人妻松居さんは、「子供のころ、裸になって雁木からずっと海の中に入っていって、魚といつも背中合わせに泳いで本当に幸せだった。それを子供にも味わわせてやりたい」とおっしゃった。
まさにそれだと思うんです。世界遺産とか景観保存とかいうことは二次的なことでね、文化というのは暮らしの中にあるもの。それを守るのが世界遺産というなら意味があると思う。骨董になって、床の間に飾っておくようなものの価値は薄い。
生活の中で使われるものにこそ意味があると思うんです。欧米では、町の中に車も入れないというような町がいっぱいありますよね。でも、歴史的な街並みを守るために我慢するんじゃなくて、誇らしく歩くことで生かしている。
松居 鞆は決して不便な町ではないと思っています。歩いていける範囲で何でも手に入る町で、お年寄りや子供にとっては特に優しい。
大林 子供たちに「未来の町はどんなふうにしたい?」と聞くとね、「郊外のスーパーは車じゃないと行けなくて不便だから、人妻が歩いて買い物に行ける便利な店をつくりたい」と言うんですよ。
道路を造って、大型店舗に行くのが便利という人妻の発想とはまったく逆でね。で、海が埋め立てられて橋ができると魚が棲みにくくなるだろうな。
魚を食べるのは大好きだけど、一緒に泳ぎたいから橋はないほうがいいと。大人は経済とか効率とか、人間の都合でしか物事を考えないけれど、子供は本能的に魚の都合まで考えている。
江戸時代の面影を残した街並みを文化財として伝えるのはいいことだとは思うけど、それが目的になっちゃだめなんですよ。不便なのを我慢して残そうなんていうのは。
歩いてこんなに楽しくて便利な町だから車は入らない方がいいじゃないかといえなきゃ。本当の意味での説得力は持たないと思う。
海で泳ぐのに便利な町がいいとかね。ところで来年の夏、鞆の海で一緒に泳がない?いま、鞆の人妻は海で泳いでないでしょう。
松居 そうですね。今は遊泳禁止になっています。
大林 そこがね、鞆には欠けていると思う。今の暮らしの喜びが見えない。海で泳いでいたらヒラメが横を泳いでいったよ。ここに橋げた立てたらヒラメのすみかがなくなるよということをね、みんなが実感する鞆でなきゃ伝わらない。
ほかの土地の人妻の子供はプールでしか泳げないのに、鞆の子供はこの海で泳げるんだよ、何て幸せなんだ、とみんなが思えれば自慢の港になるじゃない、それが世界遺産の本当の意味なんだよね。狭い路地もそう。
車がすれ違うときに、道を譲りあってね。そのときの、すれ違う運転手の顔がいいんだよ。ああどうも、僕が下がります、いや私が下がる、なんとか大丈夫、なんていいながらすれ違うとね。
車を運転してる人妻同士が挨拶を交わして、「道を譲り合う楽しみを持っている町」なんてのはいいじゃないと、そういうことから発信していかなきゃいかんと思う。
松居 鞆の町には、標識に「譲り合い」って書いてあります。東京から来た記者を案内したとき、私がすれ違う人と挨拶するのをみて、「松居さん、みんな知り合い?」ってびっくりするんです。
知らない子供たちもいっぱいまとわりついてくるし。
大林 東京の子供は逆だからね。「知らない人についていっちゃいけません」って教育されているから。
松居 港周りに住んでいる中学生が、「お母さん、これ(架橋)やったら僕らのふるさとがなくなるが」って言ったことがずっと私の中に響いています。いかにその「ふるさと」が大切なものかっていうのを伝えなきゃいけないんだって。
大林 子供はね、利害関係も立場も関係ないから、ふるさとをなくしちゃいけないってことを素直に言う存在なのね。子供にとってふるさととはおかあちゃんと同義語なんですよ。
大人になるとふるさととおかあちゃんが別物になるから話がわからなくなる。いま裁判の方はどうなっているの?
松居 '07年4月に工事差し止め訴訟を起こしたんですが、ヤマ場にさしかかっています。10月26日に、裁判長が現地視察に来ることになったんです。そうしたら、福山市が急に10月1日から3月まで狭い道に「試験的に」大型バスを増便するって言うんですよ。
いつも10人も乗っていないんだから、小さいバスを走らせたらどうでしょうかと言ったら、路線バス規約があって補助金が下りないとか…で、いま一日3便走っているのを、さらに6便増やすそうです。嫌がらせとしか思えない。
大林 「実験をしてみたら、狭くてとても走れませんでした」という結果を報告するための実験だね。
松居 私達は道を造ること自体に反対しているのではなくて、海を埋め立てて橋を架けることに反対しているんです。トンネル案ならば生活も環境も守れて、交通問題も解消できる。
しかも安くて早くできていいことばかりなのに、広島県と福山市は埋め立て架橋にこだわっている。